とにかく明るい安村の芸

今、「安心してください。穿いてます」の「とにかく明るい安村」英語バージョンが大ブレークしていますね。

見る方にとっては一瞬で終わってしまう、この一見バカバカしい芸は、非常に綿密な計算と高い技術、そして強い精神力により可能になっています。

このパフォーマンスは、①前振り(「全裸のポーズがあります」と説明する)⇒②動作(モチーフの動きをして見せる)⇒③決めポーズ(全裸に見えるポーズ)⇒④キメ台詞(「安心してください。穿いてます」)、の4段階のリズムから成り立っています。

③の段階で最高潮にもっていくためには、さまざまな要素が完璧にタイミングよくこなされる必要があります。要素とは、言葉の選び方、体の動きと表情を音楽に合わせること、そして観衆と一体になる技術です。

まず、芸の本体に入る前と終わった後の挨拶において、「とにかく明るい安村」さんは、 “I like tea.” と言っています。イギリス人が好きな紅茶を「自分も好きだ」と言って、観衆との一体感をここから作り始めています。

特に、パフォーマンスと評価が終わって彼がステージから退場する際、最後の別れ際に観衆の一人が “Good-bye, Tony!” と叫んだのに対して、この “I like tea.” を返して笑いを取っているあたりは、スゴイと思います。

芸の本体ですが、このパフォーマンスは、①の前振りの部分が大切です。ここは芸を楽しむ上での前提知識を与える部分ですので、言語、すなわちこの場合は英語で説明することになります。

この部分は、観衆に対して、簡単に分かりやすく、次のパフォーマンスに期待を持たせるようなトークにする必要があります。そのためには、細かい語彙や表現の選択が非常に重要です。

まず、 “I’m wearing pants” と述べています。この “pants” はイギリス英語では、まさに日本語の「パンツ」であり下着のことですが、アメリカ英語では「ズボン」の意味になることがほとんどです。アメリカ英語で下着のパンツは “underwear” が用いられます。ちゃんとイギリス英語に対する配慮があるのですね。

この後、彼が④のキメ台詞のところで “Don’t worry. I’m wearing…” (安心してください。穿いてます」と言いかけると、女性の審査員が “pants!” と合いの手を入れてくれ、これが盛り上がりの一因になっています。この合いの手が実現した要因としては、”wear” が他動詞で目的語が必要なことから、これを補う動機が生じたこと、もありますが、 “pants!” が一音節で発音しやすいこともあります。

次の “But I can pose naked” も、上手い表現です。単純なSVC構文ですが、これは「これから全裸になるぞ」という意味にも取れるので、これから何が起きるのか、と観衆をドキドキさせる効果があります。審査員も “No, thank you!” と悲鳴を上げるリアクションをしています。

“No.1! Football player naked pose!” の “football” も、イギリスではサッカーの意味で “soccer” よりも “football” を使う、という点を押さえています。

また、サッカー、競馬、ジェームズボンド、スパイスガール、という現地の事物を選んでいるところも見事です。

②③の実際に体を使ったパフォーマンスの部分ですが、ここにも高い技術と綿密な計算が隠されています。

音楽に合わせて踊り、タイミングよくポーズを決めるには、相当の身体能力も必要です。「とにかく明るい安村」さんは、今は体にお肉がついていますが、運動は得意らしいです。そして、その「お肉」は彼の親しみやすいキャラを醸し出すとともに、現在、パンツのエッジをうまく隠して、決めポーズが全裸に見えるようにする役割を果たしています。

また、このパンツのデザインも計算されています。ピチピチである必要があるのはもちろんですが、色と柄が大切です。

彼のパンツは、薄いオレンジ色で、白い柄が入っています。これがもし、黒の無地であったらどうでしょうか。決めポーズの際に、パンツの一部がハッキリ見えてしまって、全裸に見えない可能性があります。

逆に、このパンツが肌と同じ色の無地であれば、最初から全裸に見えてしまうので、クライマックス③で笑ってもらう、ということがそもそも成立しなくなります。

よって、彼のパンツは、肌の色に近いけど、ハッキリと「穿いている」ことは分かる、というデザインでなければならないのです。このパンツのデザイン1つが、芸の成否を決めているのです。

おそらく彼は、この芸を起案した際、自分のイメージ通りのパンツを探すため、ドン・キホーテなどへ実際に自分で足を運び、その調達には相当の時間と労力を費やしたのではないかな、と私は想像します。

最後に、この難しい芸を、文化の違う外国で、外国語を使って、披露し、見事に成功させた彼の精神力について、男性の審査員がこう言っています。

“I have to say you definitely have balls! ”

この “balls” は、「肝っ玉」「勇気」「根性」という意味です。納得ですね。