昨日の記事で血液型占いに関わる話題を取り上げました。この中で優生思想とナチスの関連に触れましたが、ナチス関連でもう一つ思い出すのが卍(まんじ)です。
日本では卍はお寺を表すシンボルで、お寺の建物等の各所にあしらわれているのを見かけます。また、地図記号にも用いられています。

この卍は、ナチスのシンボルであるハーケンクロイツとよく似ています。

このため、外国人観光客がお寺を訪れて卍を見つけて「何だあれは!なんでこんなところに鍵十字が!」と驚き、通訳ガイドに尋ねる、ということが現実にあるそうです(現役の通訳ガイドさんが話すのを聞いたことがあります)。
鍵十字ないし卍(まんじ)は、どちらも古代インドの スヴァスティカ(svastika) に由来します。
スヴァスティカは 幸福・繁栄・吉祥を象徴する古代記号で、インド・中央アジア・古代ヨーロッパなど広い地域で用いられてきました。
その起源は、紀元前数千年にまで遡ります。日本でも飛鳥時代から用いられていました。
これを20世紀になって、ナチスが「古代スヴァスティカ」を「アーリア人の象徴」と解釈して採用しました。ナチスは、自分たちは優秀なアーリア人の子孫である、というふうに考えていたからです。
要するに、本来、平和的な意味しかなかった「卍」は、ナチスのせいでネガティブなイメージを被ってしまったわけです。
現在の欧米では、教育研究目的以外でハーケンクロイツ(鍵十字)を掲げることには、強い批判が伴います。
よって、事情を知らない海外の人がお寺の卍を見てギョッとする、ということは十分あり得ます。
こんなとき、通訳ガイドは説明する必要がありますね。英文を考えてみました。
This symbol is called the manji, an ancient Buddhist symbol of good fortune that originated in India thousands of years ago.
Although it looks similar, it is completely unrelated to the Nazi swastika.
The Nazis adopted the swastika in the 20th century as a symbol of what they claimed to be Aryan supremacy.
In Japan, the manji has been commonly used at Buddhist temples since ancient times, and its meaning is entirely positive.
(この記号は「まんじ」と呼ばれ、数千年前にインドで生まれた、古代仏教の吉祥を表すシンボルです。
見た目は似ていますが、ナチスの鉤十字とはまったく関係がありません。
ナチスは20世紀に、彼らが主張したアーリア人至上主義の象徴として鉤十字を採用しました。
日本では、まんじは古くから仏教寺院で広く用いられており、その意味は完全にポジティブなものです。)
欧米には、ナチズムを唱道することを法的に禁止している例もあります。
思想内容に着目して、これを禁止するのは本来、言論の自由を重視する民主主義にとって良くないはずですが、民主主義・自由主義を守るためにあえて一定の言論を法で禁止する。
この「戦う民主主義」は極めて例外的なものにだけ認められます。ナチズムはそれに該当するわけですね。
本来、平和なシンボルとして数千年来用いられていた卍が、20世紀に出現したナチスのおかげで「危険」のイメージを与えられてしまった。
そして、このイメージが法律などの現状まで変えてしまったわけです。
日本でも2020年の東京五輪の際、誤解を避けるために地図記号の「卍」を変えよう、という動きがありましたが、それは結局、一部にとどまりした。
それでよいと思いますが、その分、通訳ガイドさんは説明を頑張る必要がありますね。
通訳案内士は「民間外交員」というのは、本当にその通りだと思います。
