通訳演習の要諦

今回は、私の通訳レッスン(全国通訳案内士試験二次口述準備)のやり方をご紹介します。

実戦形式の演習であり、私が日本語の問題文を読み上げ、これを受講者の方に英語へ通訳していただき、私がフィードバックする、というものです。時間制限がありますので、専用の1分タイマーを用いて、時間内の訳出完了を目指していただきます。

 

個人レッスンで大切なのは、何といってもフィードバックです。

私は、通訳では現場対応力が大切であり、訳には人の数だけバリエーションがあり得る、と思っています。よってレッスンにおいて、一定の「正解の訳」を受講者の方に与える、ということはほとんどしません。

一定の文章につき、その「正解の訳」に近いものは存在しますが、それを与えて「はい、これを覚えなさい」というのでは、個人レッスンの意味がないからです。「正解の訳」を覚え、手持ちの英語表現を増やしたい、という目的なら、テキスト教材を購入して自習する方が効率的です。

私がレッスンで通訳を評価する際に最初にまず着目するのは、カバー率です。つまり、原日本語の問題文に示されていた情報が、英訳にも過不足なく反映されているか、という点です。

なぜカバー率が最優先か。それは、情報の欠落は本試験で最も確実に減点の対象になるからです。

そして、欠落があった場合は、欠落した理由を確認します。つまり、聞き落したのか、メモが取れなかったのか、忘れてしまったのか、該当する英語表現が分からなかったのか、心理的に動揺したり、集中力を欠いたりしたせいなのか、という点です。

本試験では、欠落は欠落として減点対象になるだけであり、欠落した理由が何であるか、は意味を持ちません。しかし、レッスンでは違います。理由を追求することこそが、次回以降の欠落を減らし、カバー率を高め、高パフォーマンスを発揮する実力を涵養します。

欠落の原因が「該当する英語表現が分からなかったから」である場合も、安易にその英語表現を与える、ということはしません。その受講者の方が知っている語彙の範囲での言い換えができなかったか、をまず検討します。

また、該当する英語表現が分からない場合、単にその部分が欠落するだけでなく、そこで訳出が止まってしまい、途中で終わってしまう、ということがよくあります。途中でわからない部分があっても、そこで止まらずに、日本語のままで言う、あるいは飛ばす、等して、次のポーションの訳へ進むべきです。これができない理由は、該当する英語表現が分からない問題文が出た時に受ける、心理的動揺にあります。こうした点も指摘します。

欠落に次ぎ、もちろん英語自体に明らかな文法ミス、発音ミス等があれば、これを指摘します。英語表現が採点対象であることは、ガイドラインからも明らかだからです。

このように私は、個人レッスンでは、個人コーチでこそのレッスン内容を心掛けています。