だいたい訳せればいい?

全国通訳案内士試験二次口述の通訳課題(外国語訳課題)は、重要かつ難しい課題です。

この課題について、一部の指導者の中には「ガイド試験では、プロ会議通訳者のような訳を求めているわけではないので、細部にこだわらず七割程度訳せればよい。あとは笑顔で乗り切れ」のように教える向きもあるようです。こうした論は、「課題の趣旨」と「合格ライン」をごっちゃにしている可能性が高いので、注意が必要です。

まず、この「通訳課題(外国語訳課題)」は、名前のいかんにかかわらず、求めているのは「通訳」であることに疑いはありません。

通訳とは、スピーカーのスピーチを耳で聞いて、その内容を直後に別の言語に訳し、口頭でデリバリーする行為です。この課題では、まさにこうした「通訳」が求められています。これが通訳課題(外国語訳課題)の趣旨です。

「その内容」とは、スピーカーが言った内容「全部」のことです。七割ではありません。

また「笑顔」は通訳には含まれません。通訳とはコミュニケーションの中で「言語」に特化したサービスであり、笑顔のような「非言語」は、通訳者が話者と聞き手の間に入って代替する必要性もありません。笑顔はユニバーサルですから、本人同士でやればいいのです。

訳については、人によって上手下手はあるものの、それは単なる結果に過ぎません。受験者が追求すべき「通訳」は「通訳」であって、「プロの訳」と「七割プラス笑顔の訳」といった別の種類が存在するわけではありません。

この「七割でよい」というのは、ガイドラインにある合格基準点のことだと思われます。これは「100点満点中、70点で合格」と言っているにすぎず、最初から70点満点の試験が設定されているわけではないのです。

よって、受験者としてはあくまで10割の訳出を目指して努力し、結果として7割、8割、9割の訳出ができ、合格点をクリアする、ということです。

ただ、「細部にこだわるな」というアドバイスが全くの間違いか、というと実はそうでもありません。

通訳においては、原情報の聞き取りの際、「どの部分がメインで、どの部分がサブか」を分析する必要があります。そして、メインの部分がまずは優先され、それができた上でサブの部分のカバー率を高めてゆく、という方法で訳出の努力をします。

逆に良くないのは、最初から細部にこだわるあまり、メッセージの主要部分をとらえることができず、結局、訳出が完結しない(途中で止まってしまう)という結果です。

つまり、学習の過程においては「細部にこだわるな」というアドバイスは、確かに妥当するともいえるのです。

このように指導者の「だいたい訳せればいい」とアドバイスには、ミスリーディングな面があります。その先生がどういう場面でどういう意味でそのアドバイスをしているのか、学習者は理解した上で練習することが大切です。