ChatGPTを使う④

でも、それでもAIの実力は日進月歩だから、時間の問題で、すぐに万能の将棋AIができるだろう、と思う方がおられるかもしれません。

将棋のマス目は9×9の81マス、コマは敵味方合わせて40枚、コマの動き方はルールで定められている。そうだとすれば、理論上、将棋の局面の数は有限であり、AIは全ての展開を読むことができる、というのは実は違うのですね。

もしそうであれば、AIにより、将棋には「必勝法」ができるか、あるいは、両者が最善の手を指し続けた場合、「先手勝ち」「後手勝ち」「永遠に引き分け」というどれか、という結論が出ているはずです。しかし、そうはなっていません。

実は、将棋の局面の場合の数は、現在最高のAIをもってしても読み切ることができない、莫大な数なのです。全ての可能性を読むことは、単純に量的に無理なのですね。

たとえば、将棋を2手目まで指した局面の場合の数を考えてみると分かります。典型的には、先手が角道を開け、後手が飛車先を突く、これで2手目の局面になります。それぞれ20枚のコマの可能な動きの数を二乗すると、2手目の局面の場合の数が計算されます。

将棋の駒を並べた初形の時点では、コマの数が20枚、動き方の可能性は全部で30通りです。つまり、たった2手目の時点で30×30=900通りの場合の数になります。

しかも、手が進み、対局者が互いに相手のコマを取り合い、相手の陣地にコマを進めた場合、持ち駒を打つ、という可能性と、敵陣に侵入したコマを成るか成らないか、という可能性が加わります。

持ち駒のルールは、世界に存在する同系統のゲーム(チェスなど)と比べた場合、日本将棋だけに見られる特徴です。持ち駒は、盤面の空いているマス全て(反則の場合を除き)に打つことが可能です。よって、1枚のコマの可能性が数十通りもあることになります。

「将棋について」のプレゼンが掲載されている『モデル・プレゼンテーション集(予想問題編)VOL.2

結局、ゲーム終了(王様が詰む状態)までの全ての局面の数は、銀河系内の原子の数よりも多い、と言われていて、これは、スーパーコンピュータを使って数十億年かけても計算しきれない、というレベルの数なのですね。

では、将棋AIはどのような仕組みになっているかというと、数手先まで読んだら、その局面を一定の基準により評価して、評価が低い局面については以降の局面を読まない、というふうに、読む対象を切り捨てていく、という方法を採っています。

この「読む対象を絞る」という方法は、実はプロ棋士の思考方法と同じです。プロ棋士は、感覚により「こんな手は筋が悪い」と判断すると、その手を読みの対象から外すことにより、最善手を探ろうとします。

つまり、「よさそう」な局面だけを読みの対象とする、というのはAIも人間も同じなのですね。この「よさそう」というのは、あくまで「そう」に過ぎず、間違っていることがあり得ます。

将棋1局を指せばほぼAIが人間に必ず勝つ現在でも、一手ベースでは、AIの「評価」がハズレで人間の「感覚」の方がアタリ、ということがあるので、瞬間的に人間がAIを越えることがあるのです。

ただ、将棋は終局まで平均120手ぐらいかかります。この場合、1局を通じて全体的に良い手を指し続けられるのは、やはりAIの方なので、勝負はAIに軍配が上がるわけです。