「笑顔」の真実

全国通訳案内士試験二次口述では、「コミュニケーション」が評価項目として、「ガイドライン」に明示されています。

コミュニケーションには、バーバル(言語)とノンバーバル(非言語)があります。ノンバーバルに含まれるのが「笑顔」と「アイコンタクト」であり、この2つは、各種の学校における指導でしばしば強調されます。

模擬面接などを受けて「笑顔とアイコンタクトを忘れずに」とフィードバックされた経験のある方も多いでしょう。

しかし、ただやみくもに笑顔とアイコンタクトをするのは、かえって不自然な印象を与えてしまいます。適切に笑顔とアイコンタクトを使うためには、そもそも何のために笑顔やアイコンタクトをするのか、を知っておく必要があります。


笑顔やアイコンタクトには、コミュニケーションにおいて、①自分が相手に対して敵意を持っていないこと、②相手に注意を払っている(無視していない)こと、等を相手に伝え、かつ、③質問やコメントをする内容やタイミングを計る、という機能があります。

よって、笑顔やアイコンタクトは、基本的には好ましいものですが、ずっと笑顔とアイコンタクトでは、メリハリがなくなったり、互いに疲れてしまったりします。上記の①~③が目的であるとすれば、逆に言うとこれらの目的が阻害されない限り、適宜、笑顔とアイコンタクトは休んでいいはずです。また、それが自然でもあります。

また、話題によっては「笑ってはいけない」場面もあります。たとえば実務質疑課題で、お客さんが病気になった際の対応を求められるような場面では、笑顔は適切でなく、むしろ深刻な顔をする方が誠実さを表すことになります。

考えてみると、英語の面接も、我々の日本語による日常生活における常識と同じなのですね。予備校が「笑顔とアイコンタクト」をあまりにも強調するので、惑わされているだけ、というのが実際でしょう。

笑顔とアイコンタクトについては、普段と同じようにするのを原則とし、「ここぞ」というところで意識して使う、というぐらいがちょうどよいのではないか、と私は思います。

笑顔とアイコンタクトについて、意識すべき点を他に数点、挙げてみます。

(1)試験委員は2人ですので、両方とアイコンタクトをするべきです。片方を完全に無視する形はよくありません。ただ、あまりキョロキョロするのもおかしいので、適当な時間(10秒ぐらい?)で、交互に視線を移動させる必要があります。

(2)今はマスク着用なので、そもそも笑顔の表情は読みにくい、という問題があります。表情が読みにくい分、他で補う必要があります。具体的には、①相手の目をよりよく見る、②ジェスチャーの活用、③バーバルを使って相手の発言や質問の趣旨を確認する(「ご質問は~という意味でしょうか」等)、などがあります。

(3)外国語訳(通訳)においては、笑顔やアイコンタクトは不要です。これは、通訳は「相手が言ったこと(相手の考え)を言う」という極めて特殊な言語活動だからです。話す内容が相手の言葉である以上、ノンバーバルを使う必要性がないのです。ちなみに「ご清聴ありがとうございました」という結辞も要りません。相手が言った内容を別の言語で言う、それが通訳です。

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