実務質疑で「聞く力」

全国通訳案内士試験の二次口述の「実務質疑」(シチュエーション)は、ご存知の通り、2018年度から導入された課題です。

改正の経緯については、『21過去問詳解(上)』の第7章にて説明されています。実際にどのように行われるか、は、YouTubeの「新・面接再現動画」を視聴すれば一発で把握できます。

さて、この課題は歴史が浅いせいもあって、対策がやや遅れている分野といえます。

実務質疑で受験者が気を付けるべき重要なことは、「一方的にしゃべらない」ということです。

なぜなら、実務質疑課題の趣旨は「ホスピタリティ」だからです。ホスピタリティとは、お客さんをハッピーにすることです。

お客さんは、常に「自分で選択したい」と思うものです。ただその一方で「面倒くさいことはしたくない」と思っています。わがままですね(笑)。

こういうお客さんをハッピーにするにはどうすればよいか。それは相手の話を聞いた上で、「相手が簡単に答えられる質問」をするとよいのです。

「相手が簡単に答えられる質問」とは、「お客さまの興味に沿った選択肢Aと選択肢Bがあります。Aは~という内容、Bは~という内容です。どちらがよろしいですか」というような訊き方のことです。

逆に、答えにくい質問(答えるのが面倒な質問)は、「どういうことをしたいですか」というようなオープンクエスチョンです。

お客さんの話をよく聞いた上で、答えやすい質問をしてあげれば、お客さんは「自分の話を聞いてもらえた」「自分の意思で選択した」「面倒くさいことを避けることができた」という3つの満足が得られます。つまりハッピーなわけです。

このように、実務質疑では「聞く力」が大切になります。受験者は、むしろ試験官にたくさん話をさせて、自分は聞き役に回る、ぐらいの気持ちでいてよいのです。

ただ、このことを頭でわかっていても、実戦ではつい忘れてしまい、一方的にまくしたててしまいがちです。これはなぜでしょうか?

それは、実務質疑は「ガイド業務の疑似」(ガイドライン)だからです。本当の「業務」では、聞く力が大切です。ただ、あくまで「疑似」(試験)なので、どうしても「受験者の解答」に注意が向いてしまうのですね。

現に、他の課題、特に「通訳」(外国語訳)では、まさに「受験者が話したこと」のみが採点の対象になります。しかし、実務質疑はちょっと趣が異なり「試験委員からどう話を引き出したか」が問われるのですね。

通訳は客観的な技術ですが、実務質疑は「ホスピタリティ」と「会話継続の意欲」(共にガイドラインの文言)が大切です。

本試験において実務質疑は、通訳課題の直後に関連した話題をもとに行われるので、どうしても先行した通訳の答え方を引きずってしまいがちです。

しかし、実務質疑で一方的にまくしたてるのはNGです。受験者の側で、にこやかに会話が弾むようにリードする必要があります。この意味で、実務質疑の難度は高いと言えます。

何しろ、ネイティブと英会話するにあたり、ネイティブである相手を立てつつ、イニシアティブはこちらが握る、という芸当をやってのけなければならないのですから。

普通の英会話スクールで、お金を払ってお客さまとして生徒になるのとは違う、まさに「プロ」の英会話が問われるわけですね。

▶PEPニュース
「二次口述特別動画セミナー」では、実務質疑の戦略と解答法を解説しています。

・書籍『全国通訳案内士試験の二次口述過去問詳解』シリーズには、実務質疑の全過去問の解答・解説が載っています。
平成30年度(2018年度版)以降のものが、実務質疑を扱っています。

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