合格後を考える(9)

本シリーズでは、前回の(8)までで、全国通訳案内士試験合格後、得た資格を使ってガイドの仕事をするには、①ガイドは時給労働ではなく、自営業・フリーランス・起業である、ととらえること、②個人がビジネスを起こすためには、ネットを利用した情報発信が有効であること、を認識するべきであると述べました。

ここで少し私の経験をお話します。私のネット起業経験とは、現在のPEP英語学校を2013年に起こした経験です(私が通訳をやっていたのは、もう四半世紀以上前ですので、当時はまだ今のようにネットは発達しておらず、ネット起業という概念自体、一般的ではありませんでした)。

私がPEP英語学校を開校した際、私は全くゼロからのスタートで、業界に何の伝手もありません。教室になる不動産を借りるお金もありません。この時、私が最初にしたのがブログによる情報発信でした。毎日のように何かしら記事を書いていると、ぽつぽつと読者がつき始めました。

PEP英語学校ブログ(旧ブログ)

そんなとき、ある読者の方が「新しい通訳ガイド試験で問われるプレゼンテーション課題の対策教材はありませんか」というコメントをくださいました。これが元になって生まれたのが書籍『モデル・プレゼンテーション集』です。

この方は爾後、『モデル・プレゼンテーション集』のファンになってくださり、すでに当該試験に合格された後も、現在に至るまで『モデル・プレゼンテーション集』の新刊が出るたびに、その本をお求めくださいます。

私はYouTubeによる発信も早めに始めました。人気が出たものとして「面接再現動画」や「教室風景」の動画があります。今でも、これらの動画を見てファンになってくださったり、お問い合わせをいただいたりする方がたくさんおられます。

ガイドも英語講師も「対個人サービス」という点で共通します。サービス提供者がどのような話し方をする人なのか、というのは、サービスを選ぶ消費者にとって非常に重要で、事前に知りたい情報なのです。

私も学校を開いて始めて知ったことですが、何かを習いたい、と考えて学校を探す人は、こちらが思っている以上に緊張されて問い合わせをなさいます。

レッキとした大人の方が習い事をしたいと思い、商売としてやっている大人向けの学校を探す場合でも、まるで子供のように「もし怖い先生だったらどうしよう」と怖がり、恐る恐る問い合わせをされる、ということがよくあります。

ウソみたいな話ですが、私のところに「私は怒鳴られることに弱いのですが、この点に留意して教えていただけるでしょうか」と最初の問い合わせをされた方もおられます。怒鳴るなんて絶対にありえないのですが、これが人の心理というものなのです。

こんな方のために、そのサービス提供者の動画を自由にみられる状態にしておくことは、顧客フレンドリーな営業活動であるといえるでしょう。

これまで何らかの学校に通ってガイド試験の勉強をし、晴れて合格して今度は自分がガイドのビジネスを始めようという場合は、今度はサービスを受けるのではなく、提供する側に回る、ということです。ですから、顧客目線という点で、情報発信、特に動画を提供することは重要です。

そして先に述べた通り、この情報発信を通じて様々なビジネスの展開が見えてきたり、アイディアをもらえたり、人との出会いがあったりします。情報発信は、まさにWin-Winなのです。
(つづく)