合格後を考える(6)

さて本シリーズの前回、自営業たる通訳案内士として働き、黒字を出すためには、それなりの準備が必要だ、という話をしました。今回は、具体的にどのような準備をすべきか、ということを考えてみます。

私がお勧めするのは、ズバリ、ネットを利用した情報発信です。ツイッター、Facebook、インスタグラム等の各種SNS、YouTube、ブログ、メルマガ等、また、電子書籍の出版などもよいでしょう。

なぜ通訳ガイドがネットで情報発信をすべきなのか。これは先に述べた通り、通訳ガイドは自営業であり、自営業にとって情報発信はメリットが大きいからです。

そのメリットは、①信用を得られる、②プレゼン能力が付く、③マインドが鍛えられる、④それ自体が収益源になる、⑤世界に向けて自分の商品を容易に伝えられる、等に分けられます。

①信用を得られる
情報発信をすると、必ずそこにはその人の能力と人柄が現れます。特に良いのはYouTubeです。なぜなら、動画はウソがつきにくいからです。

自分が客として、通訳ガイドを頼もう、と思って適任者を探す場合、どのようにして、どのような人に頼むか、を考えてみればよくわかります。いつも頼んでいる人なら安心ですが、新たに人を選ぶ場合、その対象者がどんな話し方をする人なのか、ぐらいはあらかじめ知りたい、とお客さんは思うでしょう。

こんなとき、ネットでその人が話している動画を見られれば、その人をまず選考の候補にすると考えられます。「あ、この人、なんだか感じがいいから頼もうかな」という人が出てきます。自分の力で新規にマーケットに食い込もう、と考えるのであれば、こうした自分に関する情報を開示して、顧客となるべき人のためにネット上に置いておくべきです。

私は先日、ある通訳案内士団体のホームページを閲覧しました。そこには、会員の通訳案内士が自己紹介のYouTube動画を自分の担当する言語で作成し、アップしてありました。これは大変良いことです。

ただ、この動画が限定公開の設定で、当該団体のホームページだけに貼ってあるようなのは、おかしなことだと思います。こうした動画は、各通訳案内士個人の固有財産として、一般公開し、各自のホームページに貼り付けるべきです。自営業者は、団体に依存するのではなく、まさに自分で顧客に対しダイレクトに訴求していくべきです。

②プレゼン能力が付く
情報発信をするには、それなりの説明能力が必要です。よって、情報発信を続けていると、説明する力が向上します。通訳ガイドは、まさに「説明する仕事」ですから、プレゼン能力はガイドの能力の中核です。

ガイドの能力を付けるために、実際の仕事の経験を積むのももちろん良いことですが、新人に振られる仕事は少ない、仕事をしないと能力がつかない、能力がつかないと仕事が来ない、という八方ふさがり(Catch22 situation)がまさに新規参入者の悩みのはずです。そんなとき、自分一人で能力を磨く方法の1つが、ネットによる情報発信です。

具体的には、日本の観光地の紹介動画を作って、これをYouTubeで公開するとよいと思います。今は、大がかりな旅行等はしにくいですが、1人でビデオカメラを持ってひっそりと旅をすることならできます。


こうして動画を作ることにより説明能力が向上し、自分の知識が増え、かつ、作った動画は自分の資産として蓄積されていきます。

③マインドが鍛えられる
ここでいうマインドとは、もちろん独立事業者としてのマインドです。「独立」という部分が大事です。すなわち、団体に依存するのではなく、「自分の顔で商売する」というマインドです。

顧客にダイレクトに価値を届けて対価を得る、という働き方をすれば、理不尽な要求とは縁を切ることができます。そして、そのために精進すれば、その「届ける価値」の質は自然と高く鍛えられます。
(つづく)