ケネディの就任演説を味わう

前回に続き、英語学習方法としての英語スピーチの音読について、私の経験に基づいて語っていきたいと思います。

音読するスピーチの素材として最も古典的な「ゲティスバーグ演説」の後、しばらく私は英語の勉強からは遠ざかっていました。

次に始めたのが大学2年生の時、私は初めて真剣に英語学習に取り組むことを決め、夜間の英語学校に通い始めました。

この学校は、「東京松本英語専門学校」といい、NHKラジオ英会話の講師で有名な、松本亨先生が創立者の学校です。

ただ、私が通い始めた頃は、もう松本先生は亡くなられており、後継者とされていた森喬伸氏が運営をされていました。

ここで生徒に課されたのが、スピーチの暗唱でした。最初が「ケネディ大統領の就任演説」でした。これも、日本人の英語学習用の素材として古典的なものです。

ケネディ大統領の長女であるキャロライン・ケネディ氏は、オバマ政権下で2017年まで駐日米大使を務められていましたが、氏が日本を去る際、「日本人は、英語を学ぶために父の就任演説を暗唱してくれている」と感激を語っておられました。

さて、その「日本人」の1人であった私は、一生懸命に課題に取り組み、深い内容は分からないものの、一応、発音等は正しく暗唱できるようになりました。

The world is very different now—for man holds in his mortal hands the power to abolish all forms of human poverty and all forms of human life. And yet the same revolutionary beliefs for which our forebears fought are still at issue around the globe—the belief that the rights of man come not from the generosity of the state, but from the hand of God.

(現在の世界は、昔とは全く異なったものになっています。なぜなら、今の人類はその万能ならざる手に、人類の貧困全てと、人類の生命全てを滅ぼす力の両方を握っているからです。しかるに、我らが父祖が闘争をもって体現した革命的信念と全く同じものが、現在でも世界中で問題になっています。その信念とはすなわち、人権は国家の恩恵として与えられるものではなく、神の手によって与えられる、という考えのことです)

この一節の前半は、演説当時の東西冷戦という状況を表すものです。そして後半は、「天賦人権説」(すべて人間は生まれながらに自由かつ平等で、幸福を追求する権利をもつという自然権思想を指す。ジャン=ジャック・ルソーなどの18世紀の啓蒙思想家により主張され、アメリカ独立宣言やフランス人権宣言に具体化された)を表しています。

ここでいう「人権」(rights of man)は、ゲティスバーグ演説の「自由」(liberty)と同義です。このように、歴代のアメリカの大統領はその演説で、概ね同じようなことを繰り返し述べているのです。

さて、英語スピーチを社会科の知識と結び付けることは、当時の私には十分できませんでしたが、英語学習という点では、大いに得るものがありました。

それは、約1,400語にもわたる長文の英語を完全に覚えることができた、という自信です。自分には、記憶する能力があることを確信でき、その具体的記憶法を身に付け、実際に覚えた英語を基礎に、その後の文法、語彙、背景知識を学んでいく準備ができたことは、大変大きかったと思います。
(つづく)